アルファな夏の終わり

イチロー

2006年12月15日 22:05



深夜まで図面を書いていた時期があり(いろいろやったのよ私)、気分転換を
図ろうと泳いでみたり、歩いてみたりしたが、気分が晴れない。

帰宅が深夜になるから、その時間が気分転換したい時間なのだという理由を
築き上げ、30代の僕はアルファを買う。
それもアメリカ並行輸入という、かなりアブナイやつ。
色はアイボリーである。

今と違い、古きアルファは走らない車だが、音は一級品、最初から改造マフラ
ーのような音がし、気分があがる。

幌をたたみ、深夜の浜松バイパスに乗り出すと、まるで滑走路・・まではいかず
とも、風になれた。

もちろん、映画”卒業”の影響でコレが好きになり、橋など渡れば頭の中に、「ティ
ティティ・・・」とS&Gが聞こえてきて、若きダスティン・ホフマンになれた。

30代半ば、最後の無茶ができる時期で、2座も問題ではない。
乗り心地も遠乗りも期待できない車だから、誰も乗せないし、深夜帰宅なのだから。

仲間のポルシェと箱スカGTRを持ち、ある日バイパスに3台で乗り出した。
止まっている限りアルファサウンドは、2台には負けない。
信号にかかり、先の2台が斜線を塞ぎ、フォンフォンとブリッピングしながら青を待つ
信号が変わると数メートルは一緒、ポルシェのエンジン音、GTRの豪快な吸気温が
聞こえた瞬間、2台ははるか前に飛んでいってしまった。

残されたアルファは夜風を受けてのんびりクルーズ。
信号グランプリする車ではない。

弁天で待つ2台は待ちくたびれていたけれど、囲む車好きの前につけたアイボリー
のアルファは余裕だった。
目的地を海へ、これが車の特性を考えた策略なのである。

夜水銀灯を浴びた車は昼とは違う顔をする。
白いポルシェ、シルバーのGTR、アイボリーのスパイダーならば、シチュエーショ
ンで勝負できるのだから。

この車を書くと、友人が必ず持ち出すから、しっかり落ちをつけておこう。
ある夏の昼、雨漏り帽子にシートをかけたアルファに乗り、幌をあけて、夏に向け
て出発、快調なエンジンが回った瞬間に、足元から煙がわきあがる。

長いボンネットをあけた僕は、エンジンが盛大に燃えているのを目撃したのだ。
地元に貢献していた青年後期の僕は、「自主防災隊」におり、街の消火器の場所
に詳しかった。

2本の消火器は見事にオープンの車体を覆いつくした。

僕の青春の一部が終わった瞬間だった。

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