2シーターオープンに一人で乗るのは自由への旅だが、二人なら風と太陽の下で
共有体験ができる。
はまQガレージから借り出したホンダS2000に乗り、すぐに車のルーフとはいかに
人と自然を隔てているかが分かる。
電動ルーフを収納すれば、道も街ももちろん海も独特の匂いを持つことに気づく。
熱せられた道の、あのほこりっぽい香りがする。
海が迫れば潮の持つ海苔や海草のような空気が車内に入り込んでくる。
海に向かう時、期待されるあの香りをいち早く嗅ぐことができるのはオープンの特
権である。
移動の為の安楽なクローズドボディは平日に置いてくるのだ。
停車した駐車場には浜名湖競艇のモーターの爆音が響く。
海はなぎ、海面を渡る風があの香りを連れてくる。
青が海に溶け、太陽にシートが焼かれる。幌はしまったまま風に吹かれるままに
いるS2000は浜名湖がよく似合う。
一日を太陽と過ごすようにドライバーだけは相棒よすまぬと言いながらキャップを
被っている。
じつは競艇の駐車場にS2000のアネキ分ともいえるビートが停まっていた。
シルバーのボディのホンダスピリット溢れる車に並べて停めた。
過不足ない大きさかと思ったエスが、大ぶりに見えるほどビートの見事なコンパク
トさに驚いた。
ホンダはいつの時代もオープン2シーターの愉しみを伝え残してくれている。
いかなくてはと車に乗り込み、熱いシートに「ウッ」と尻を浮かす。
陽を浴び風に吹かれて走ることがじつはスポーツである。
ドン、ブルッとボディをゆらして火を入れる。太陽と遊ぶかぎり走らなければ損だと
思わせるのはエスは思うところへまさにドライブ(運転する)を愉しませてくれるから。
行こうぜ、踏めよとエンジンが煽る。
このタイトさに慣れたところで振り返ってビートを見た。
さらにタイト、そしてミッドシップなら、どんな感覚なんだろう。
車に乗ることは出会いでもある。
近いうちにエスのアネキに乗ってやろう。じゃじゃ馬なはずだ。
車を女性名詞で呼ぶのは男だからだ、心通わせる女性として愛さねば
いけない。
なにより、今の時代男らしいのは女性なのだからね。
そして我は青い妹と走り出した。