ほら、さくらんぼ

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ほら、さくらんぼ

なにげなく通り過ぎる並木はじつは小さな桜が植えられている。

桜の季節には愛でたはずなのに、もうこの初夏には忘れられている。それでも
日中は広がりだした葉が作る木陰に車が停まっているのです。

「ほら、さくらんぼ」、木の下にいるならば少し目を凝らしてみるのがいい。
小さな赤い子たちが緑の葉の陰に隠れているのです。

昔々、宮城に住む友人が訪ねてきたことがありました。
予定していた日が都合が悪いからと連絡してきて、あわてて日程を調整した
ことがありました。

駅に迎えに行くと彼は、白い積み重ねた箱をぶら下げてニコニコと駅から降り
てきた。
それは自慢の宮城のサクランボの箱だったのでした。

「どうしても食べてもらいたくてね」と言う彼は佐藤錦の収穫に合わせて日程
を変えていたのでした。

真っ赤なツブのサクランボ、箱いっぱいの宝石たちをお土産にしようと骨を折
ってくれたのでした。

緑の葉の陰の小さなサクランボ、遠い宮城で働く友人を思い出したのでした。

元気でやってますか?


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