「ご飯だよ」と母が呼べば、子供たちは丸いちゃぶ台を囲みます。
普段は箪笥と箪笥の間に足を折りたんで仕舞ってあるあの丸いちゃぶ台です。
たくさんのおかずは並びませんが、ちゃぶ台の上にはおかずが盛られた皿が
並び、炊飯器を横に母がご飯を父、ボク、弟、妹、自分の順に盛ってくれるの
です。
父の次に大きな椀は長男のボクの茶碗、大きくなるたびに買い換えてもらえる
から同じ一杯でも随分たくさん盛ってもらえるのです。
それでも力仕事をする父はもっと大きくて丼のような大きさの椀なのです。
家は職人の家、小さい頃に住んでいた父の実家では勤めている若い衆がず
らりと並んでご飯を食べます。
みんな、ご飯を山に盛って少ないおかずを工夫してご飯とバランスをとって
いただくのです。
急ぐ時は、味噌汁をご飯にぶっかけてかきこむから、みんなの椀は丼ほども
ある大きなものでした。
ある日、友達の家に行くとご飯を食べて行けという、違うおかずが食べられる
のは子供にとってうれしいことです。
それにそんな時は子供の好きなおかずに決まっていましたからね。
でも、残念なことにご飯の椀が小さくて、そこにちんまりとご飯を盛るのです。
お代わりをしましたが、とても足りないのです。
普通のサラリーマンをしているその家ではみんな行儀よくご飯を食べます。
テレビも消して、学校のことを話し、お父さんは仕事のことを話しました。
家ではテレビを見ながら、ご飯を山のように食べていましたから決して居心地
がよくなかったのです。
家のご飯は大盛りご飯、父が外食を嫌いなのはきっとご飯が大好きだからで
す、その子供も大盛りご飯が好きになったのでした。
ご飯茶碗と共に大きくなった頃、一番下の妹はピンクのプラスチックの椀で
食べていました。
大盛りばかり食べていたボクと弟はそれで巨大に成長した。
妹は普通の大きさで普通の家に嫁に行きました。
ご飯の思い出は毎日の思い出、歳をとった父は小さな椀になりました。
今でも一番大きな椀がボクのもの、職人でなくとも大盛り飯を食べているのです。
※写真提供:
「Round table」ギャラリー通信!どの