福持ちの縁起
え~毎度三題話でございまして、高座芸のひとつで
ありましてお客様から一題づついただいたお題を入
れこみまして即興で噺をこさえる。
今回も同門の
SEAESな二人の企みでございまして、
浜松泉町の
つちや餅店の二代目からの出題でござい
ます。
今回は「大福」「すすき」「船」でございますが、
うまく噺ができますか、話はじめてまいります。
秋になりますと、ちょっと小腹が空いてまいります。
実りの季節なんて申しまして美味いものがたくさん
売り出されますから目につく毎にいただきたくなる。
暑さもそろそろ涼しさに代わってまいりまして夜に
なりますとヘソ天で寝ていたものが布団を被りまし
て朝を迎える。
よく眠りますと体の調子が整いまして腹も活発とな
りまして腹がよく減るようになるわけでございます。
天高く 馬肥える秋 なんて申しまして飼馬が肥え
ればよく働くというかつての農業事情でございましょ
うか、今ならば天高く 女房肥え ダイエット通販
儲かるなんて申しますと・・・叱られますな。
「おうっ、たまには兄ぃの家に行こうじゃないか」な
んて勢いがいいのが熊さん、「そうだなあ行こうか」
なんてのが八っあんであります。
美味いものを持って行こうってんで思案いたしますが
兄ぃにはひとつこだわがございまして縁起担ぎであり
ます。
先日も海辺へ出かけたからってんで干したイカを買っ
て土産に持っていきましたが、「兄ぃ!土産のスルメ」
と差し出すと、「帰れ」とにべもない
縁起担ぎですから、「当たり目」と言わなければいけ
ないわけで、「イカは以下」にも通ずると商売の傷に
なるという。なかなか難しい兄ぃでございます。
浜松の在から思案をしながら姫街道を上ってまいりま
すが、泉あたりにまいりますと幟が立っております。
「福ツキ餅 伸び伸び」なんてことが書いてあります
から見上げますとつちや餅店とあります。
これは縁起がいいってんで、「福ツキ餅くんな」と
言いますと、店主が言う、
「これはこれは、福をお持ちになる方がいらっしゃっ
た」なんて言いますから気分が言い、末広で八つもら
いまして「新しいかい」と聞くと「毎日ツイてます」
なんて言いますから間違いありません。
「大福持ちのお二人さん、福をお分けください」な
んて言葉に送られて出てまいります。
すっかり気分がよくなり秋深まる姫街道を参ります。
今や建物が建て混みましたが、かつては松が街道沿い
にございましてススキが生えている。
饅頭じゃあありませんが、福ツキ餅は大福餅でありま
す。
風流な兄ぃにススキも持って行こうとたおりまして抱
えてまいります。
「おう八、兄ぃのところへ行ったらつちや餅で教わっ
たとおりにしゃべろうぜ」
「大きな福を持ち、福を分けにツキたての兄ぃにに
献上」、、、こうだったなと八っつあんが熊に言う。
ヒラリヒラリと秋の風にそよぐ暖簾は瓢箪印にぶん屋
、兄ぃは小間物屋を営んでおります。
店の前には真っ黒な荷車に「大黒屋」と金蒔絵で書い
てある車が止っております。
兄ぃには兄ぃがおりまして大黒屋さんは呉服屋さんで
ございまして友禅を描いて着物をこしらえております。
大黒屋さんも屋号で分かる縁起担ぎでありましてこの
車を「蔵運」と呼んでおります。蔵が建つほどに福を
呼ぼうという、小槌を持った大黒が蔵運などと言う。
「参ったねえ、熊さん、二人も縁起担ぎがいるよ」
こわごわと暖簾の隙間から覗きますと、秋の午後、涼や
かな風が吹き通る店の中、煙草盆をはさんで二人とも
船をこいでいる。
「おや、寝てるよ二人とも、大黒は船を漕ぎ、ぶん屋
はプカリプカリと水に浮いてらぁ」
「え~、蔵運の大黒様、瓢箪から駒のぶん屋の兄さん」
声をかけますと、二人共目を覚ましまします。
「おめぇらにしては起こし方がいいじゃないか」と二人
とも大喜び、そこへ二人が大福を置きます。
「え~大きな福を末広の数持ち、福を分けにツキたての
兄ぃたちに献上、ますます商売の~び伸び」
あまりの縁起のいい口上に二人は大喜び、熊も八の株も
あがりまして、めでたいめでたいとと縁起担ぎの喜びの
店であります。
早速大きな福を食い、ツキを伸ばそうとお茶を頼みます。
弁天様のような兄ぃの恋女房(よいしょっと)あき姐さ
んが茶を持ってきますと、ぶん屋の兄ぃが言う。
「おう、あき、茶は八と熊の膝の前に置きない」
「なんだい、それはおまいさん」
「ツイてきた大福だ。お茶を引かれちゃあなんねえ」
茶菓チャンリンチャンチャンリンチャンリン、デンデーン
浜松泉のつちや餅、毎日ツイてる大福餅、福を伸ばして
福分ける 人に福餅包みます。
つちや餅店の二代目からお聞きしました繁盛縁起、新発売
の福ツキ餅のお話でございました。
大きな福をいただきます。
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