目に見えない恐怖が迫るような時に怖さは増幅する。
なにげなく歩いているうちにいつの間にか誰もいないことに気づくことがあり
ます。
明るい神社の境内で遊んでいたつもりが、かくれんぼをしているうちに境内
の暗い裏にいてその縁の下が破れ真っ暗な穴を見つけ、覗きこもうとすると
暗い向こうから覗かれているような気がして「ぶるっ」と怖くなる。
足元は枯れ葉がカサコソと積もり荒れた細葉垣は蜘蛛の巣ものすごくかかり
気づけば枯れ葉の中から苔むした古い石がのぞいている。
境内の奥は普段でも怖くて行かなかったはずなのに「ドキンドキン」と心臓の
音がわかるほど静まり返っているのです。
「ギッ」と高く暗い枝から鳥が飛び立つ音が一人ぼっちで隠れている僕を驚
かせます。腐って落ちた板が苔むし「朽ちている」ことに気づきます。
小さな虫、足ばかり長い蒸し、おびただしい足をざわめかせるヤスデがその
裏から這い出しています。
心臓の音に音も立てずに歩く黒い虫だけの世界で小さくなって隠れているの
です。開いたところを見たことがないお宮の裏の戸は傾き隙間をつくっていま
す。その中の真っ暗に見つめられて動けないでいるのです。
知らない虫たちは枯れ葉の中を這い回り、高い木の枝の真っ暗な天蓋に覆
われた空は暗くなってきたように思うのです。
大きくて足の長い蚊が葉に何匹もとまっているのを見つけます。
足でかきわけてしまった枯れ葉の下に真っ黒な土が見えています。
何人もいたはずなのに友達は怖い境内の裏には来ないのです。
「お宮の裏は怖いから行ってはいけません」そんなことを言われたことを思い
出し悔やみはじめますが薄暗くカビ臭い中で動けないでいるのです。
落ち葉を山に集めたところがあります。誰がそんなことをしたのか墓のように
枝が刺さっていることに気づきます。
黒い土の臭いがわいてくるのに目をつぶったらもっと怖くなりそうで見開いて
いるのです。
「あっ みいつけた」
後ろからドンと背をつかれて我にかえると鬼になった友達のズックが見えま
した。
「ああー怖かった」
腰が砕けそうに固まった体を伸ばして友達について歩きます。
「見つけちゃった」
ズックの友達は振り返ると口が裂けた鬼になっていました。
「見つけちゃった 見つけちゃった 見つけちゃった」という声に虫たちがゲゲ
ゲッと唱和しました。 お宮はとっぷりと暮れていきました。