18歳で上京すると一本のドラマを楽しみに見ていた。
修行に行った店はオヤジさん、女将さんに若大将のまあちゃんが24歳、番頭格
のヒデちゃんが23歳、ひとつ兄貴分の明彦ちゃんがいて、一緒に入ったアキヨシ
君と僕との7人の店になっていた。
18歳の青年はまだどう生きていってよいのかがわからない、ヒデちゃんだけは
出来ちゃった婚していたけれどまだまだ青いものばかりで働いていたのです。
「こら!また新宿で踊っていたんだろう」
「あいやぁ・・そんなことないっすよ」 「朝帰りだったな」 「あいやぁ・・これもつき
あいっすから」
受け答えは全て当時放映されていた「前略おふくろ様」そのもので、実際に故郷
の浜松からは母からの手紙が届くわけで、すっかり主人公のサブちゃんになり
きっておりました(店にサブちゃんと同様に地方から若い衆が入るのははじめて
でしたから)
「オヤジさん」「女将さん」と下町では呼び、明彦ちゃんから下は「若い衆(わかい
し」と呼ばれる、店は浅草の対岸向島にあり、近所には料亭が並び修行の若い
衆や芸者さん半玉さんなどがたくさん住んでおりました。
(向島は落語などでもおなじみ、江戸時代には商家の寮という別宅や花柳界の
粋筋なみなさんが多く住んでいるところです)
サブちゃんが男が男に彫れた秀さん役は若大将のまあちゃん、その片腕役(小
松政夫さん)はヒデちゃんとなりますから、オヤジさん女将さんもいますからまる
でドラマを地でいったような生活がありました。
何か言われれば「あいやぁ・・・ っすよ」で答えましたが、近所にはドラマ
同様に料亭で修行する若い衆がいて、料亭の勝手口の外に座り、芋をひたすら
剥くようなことをよくやらせらていました。
「うまくなったかい」と聞けば「あいやぁ・・・まだまだっすよ」と答える。
下町に住む若い衆はみな萩原健一のサブちゃんになりきっていたのでした。
ヒロインはサブちゃんの恋人役のかすみちゃん(坂口良子さん)でしたが、残念
ながら若い衆の誰にもそんな子は現れず、「あいやぁー・・・あいやぁー」とばかり
言って暮しておりました。
まじめに修行しておりますと斜め前の家の旦那がどうだどうだと飲みついでに
娘を売り込んでいたようでしたが、ゴボウ娘と呼ばれていた子もそんな気はない
ようでしたし、あきちゃんが並びの建具屋の娘に惚れてセリカを買い、ドライブに
誘いに行って一発で断られてくるなど、ドラマのような恋はなかったのであります。
今はその町に新東京タワーが建ちはじめているそうです。
米屋のおじさんに誘われて通った銭湯の向かいの場所になります。
今度また訪ねてみたいものです。
「あいやぁ・・変わったっすね」
サブではなくイチローは合いも変わらずあの頃と変わらないようであります。
前略女将さん、お亡くなりになった翌日に伺いました。オヤジさんはちっとも変わ
っていませんでしたがイチローちゃんイチローちゃんと可愛がってくれたあなたはい
ませんでした。
女将さんに鍛えられて魚も大好きになりました。今も不器用に生きています。
あいやぁー・・商売は下手なままですが教え通り親を大切にしています。
あいやぁ・・・女将さんに会いたくなりました。 また手紙書きます。下手な字です
がすみません。