山の風花

イチロー

2011年01月30日 22:15



「雪が降ってきましたね」と窓を示すと「風花と言うんだよ」と
森さんが教えてくれる。

確かに雪雲からしんしんと降る雪ではなく、晴れた空の彼方から
風と共に飛ばされてくる白い花は風花である。

「今日は冷えると思ったよ」と肩をすくめて炭火に当たっていれ
ばかざした手や顔ばかりが熱くなっても肩や背や腰は冷えてくる。
1月の終わりは、一年で一番寒い季節です。

「あの白い花はなに」

「あれは三椏(みつまた)、亡くなったお父さんが植えたんだよ、
花はみつまたに分かれた枝の先に咲くんだよ」

造園の仕事をする森さんは店に通う常連の中で植木や植物を教え
てくれる。

その向こうで猟で獲ったイノシシの話をしているのはまあちゃん
である。お茶の仕事の農閑期、冬には狩猟をして楽しんでいます。

しいたけのほだ木を並べて菌打ちをする話しはカシちゃんがして
いる。山の男たちはさまざまなプロであり、街の暮らしでは知り
えない話しをしてくれるのです。

5万円で買ったチェーンソーは古いタイプだけれど混合燃料の他
にチェーンを円滑にするオイルが別にいる話は面白く、間伐材の
森に入り風呂の薪をつくる話しに続くのです。

囲炉裏には芋餅が焼けています。マッシュポテトと片栗粉を使っ
てつくる芋餅は焼いてたべれば本物の餅のように柔らかく香ばし
い匂いに焼けてゆくのです。

壁に抜ける煙突の穴の小さな隙間から小さな鳥が入り込みます。
小さくとも丸々と太り長い尾を持つこの鳥は、お店に毎年巣を
つくりヒナを育てているのです。

焼いたスペアリブには太い骨がついています。
その骨は店の番犬ジュンのとり分です。足元でカリカリと骨を
齧ってはその髄まで食べてしまうのです。

顔がホカホカと焼けていきます。外では風花が舞っています。

「私今日が誕生日なのよ」というお母さんにみんなからお祝い
の言葉がかけられます。

「眠いなあ」の言葉に頷くみなはアジアカップの決勝を見て寝
不足なのです。その顔を炭火が暖めて眠気を誘うのです。

深いふかい山の奥のお母さんの店には山の人が通ってきます。
そこに混ぜてもらい、春を待って積む山菜の話しを聞いている
のです。

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