緑の石のひみつ

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緑の石のひみつ

遠い遠いロシアの大地

昔々こんな歌がありました。

「緑燃えるロシアの大地に二人の愛は芽生えて明日へと続くのさ」

緑でしょうか、宝石を色にたとえることは、とても難しいのです。
特にピアノ弾きにとって宝石店を覗くことさえ初めてだったからです。

ピアノ弾きの選んだ石は確かに緑色をしていました。
宝石は、緑と一色では伝えられないのです。
だって、ピカピカしていて、それは石の中から光っていて、緑なのかブルーなの
か自信がなくなってしまうからです。

緑を選んだのは、彼女が好きな色だったから、そう、それよりも正直に言えば、
最初に出会った時の彼女の服が緑だったからなのでした。

夏の緑の中に緑が現れて、とても不思議だったのです。
はじめて、あんなにドキドキしたのですからね。

緑の石のリングは大切に右ポケットに入れて、その上から何度も何度も手で確
かめられて運ばれていきました。

ピアノ弾きの仕事はとても夜遅くなる仕事です。
その夜のピアノ弾きは鍵盤が弾むほどに上手に弾けました。

お客さまはとても褒めてくれました。
でもね、それはきっと右ポケットに入っている、あの緑の石のせいなのでした。

だからもっともっと、弾いていました、
それは弾いて弾いて勇気を出すピアノ弾きだったからなのです。

仕事を終え、彼女の待つ部屋に帰ったのは、もう夜明けも近い頃でした。

待ちくたびれて眠る彼女はとても小さな手をしています。
細い細い指が、少しだけ水しごとで痛そうに腫れていました。

ピアノ弾きの指も、鍵盤を叩きすぎて痛いほどでしたが、彼女の手をそっと
持ち上げ、その指に右ポケットの指輪をはめてあげたのでした。

彼女はピアノ弾きの小さな緑の妖精のように思えました。
そして、よの妖精の細い指には、緑の石がとてもキレイに光っておりました。

目が覚めると、隣に疲れて帰ってきたのでしょう、ピアノ弾きが椅子に座った
まま眠っています。

遅くまで弾くと指が腫れてしまうピアノ弾きの指をそっと包んであげました。
起きていたなら、暖かいお湯を用意して、大切な指をいたわってあげたいと
思いました。

その時、朝陽が部屋に差し込みました。

なんということでしょう、とてもきれいな石がはめられたリングが指にあるの
です。
朝陽にキラキラと光る石は彼女の大好きな色をしているのです。
それは、初めてあった時、彼がかぶっていた帽子の色でした。

会ったばかりなのに、夢中になってしゃべったあの日の帽子の色でした。

それはとてもとてもきれいなピンクでした。
それから大好きになったピンクでした。

「お話のつじつまがあわなくなりましたか」

緑の石とピンクの石、はいはい、それは間違いではないのですよ。

ピアノ弾きが大好きな彼女に贈ったのは「アレキサンドライト」という宝石なの
です。

不思議なこの宝石は、室内で見ると、グリーンに見えるのです。
ところが、外へ出て紫外線を浴びると、ピンクに変わって光るのです。

それともその反対だったかもしれません。
古いロシアのお話で、もう定かではないのですよ。

語り手もそれは聞いたお話なのです。
日本の浜松にある、フィロンドールで聞いたお話なのです。
確かにその石を見せていただいたのですよ。

でも大丈夫、お話は続きます。

グリーンの妖精を大切に思うピアノ弾きと、ピンクの帽子のピアノ弾きが大好き
になった少女は、昼も夜も仲良く暮らしましたとさ。


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この記事へのコメント
アレキサンドライトのお話を、こんな素敵な物語で書いていただいて・・

ありがとうございます。

僕のジュエリー、これからも楽しみにしています。
Posted by まこちゃ at 2007年02月26日 00:14
物語すぎてごめんなさい。
アレキサンドライトはそれほど美しかったのです。
いつか欲しいです。
Posted by イチロー at 2007年02月26日 09:21
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    コメント(2)