2008年10月05日12:46

浜松の奥、浜名湖に注ぐ都田川のほとりの宿場町気賀に今も残る昭和が
ある。
もう一篇だけ吉野屋について書いてみたい。
「庭を楽しみましょう」と誘われて出てみれば池の向こうに大広間がある。
庭は庭木を配した築山状の起伏がつくられ、季節にはさぞやと思われる
ツツジが植えられている。
格がある庭に松が池の上に枝を伸ばし、池のほとりには芳香のクチナシ
が実を膨らめていた。
静かである。土曜にしても静かで池は音をさせずにそこにあり、たった一匹
の珍しい蝶が舞うばかりの”空間”の中にいた。
夜の宴会までは昼時間は専用庭として楽しむことができました。
割烹使いした二階屋の離れの奥に行くと二階への階段がついていた。
竹と土、木の組みあわせに石の土間がある。
階段を見上げると薄暗い二階へと続いている。

部屋に帰り、「階段を見てきましたよ」と言うと、誰もが茅ぶきの二階を見た
がったから、ちょっといたずら心を起こした。
「階段の先が真っ暗な闇になっていましたね」、ちょっと意地が悪い性格な
のである。
「どうだったの?」
「いや、上がって行くとね、ザワザワッと」、「うんうん、それで?」
「真っ黒クロすけがたくさんいたのさ」
冗談冗談と笑いながらも、いそうだなと思う。 暗い二階に上がって行くほ
ど肝も座っていない男はいささかへたれである。
50男ではだめである。 今度はサツキとメイみたいな小さな子供を伴えば
きっと昭和初期の旅館には何かが住んでいるに違いないのだ。
夕刻まで楽しんだ話を終え、「お世話になりました」と宿を後にすると、別棟
の二階にいた吉野屋のおばあちゃんとおぼしき女性と目があった。
「お世話になりました」と大きな声でいい、「またお越しください」と丁寧に
頭を下げられた。
昭和の座敷で先代とおぼしきおばあちゃんに気賀の歴史を聞くなんていう
催しもよさそうだ。
その時に、そっとこの宿にはクロすけがいますかと聞いてみよう。
もしかしたら、子供に戻ったおばあちゃんなら、小トトロくらいは見かけてい
るかもしれない。
縁の下あたりに、どんぐりを溜めていなかったか見ないで残念だった。
吉野屋は我々より長生きして昭和を留めているおばあちゃんの家である。
昭和がそこにある≫
カテゴリー │イチロー的ココロ

浜松の奥、浜名湖に注ぐ都田川のほとりの宿場町気賀に今も残る昭和が
ある。
もう一篇だけ吉野屋について書いてみたい。
「庭を楽しみましょう」と誘われて出てみれば池の向こうに大広間がある。
庭は庭木を配した築山状の起伏がつくられ、季節にはさぞやと思われる
ツツジが植えられている。
格がある庭に松が池の上に枝を伸ばし、池のほとりには芳香のクチナシ
が実を膨らめていた。
静かである。土曜にしても静かで池は音をさせずにそこにあり、たった一匹
の珍しい蝶が舞うばかりの”空間”の中にいた。
夜の宴会までは昼時間は専用庭として楽しむことができました。
割烹使いした二階屋の離れの奥に行くと二階への階段がついていた。
竹と土、木の組みあわせに石の土間がある。
階段を見上げると薄暗い二階へと続いている。

部屋に帰り、「階段を見てきましたよ」と言うと、誰もが茅ぶきの二階を見た
がったから、ちょっといたずら心を起こした。
「階段の先が真っ暗な闇になっていましたね」、ちょっと意地が悪い性格な
のである。
「どうだったの?」
「いや、上がって行くとね、ザワザワッと」、「うんうん、それで?」
「真っ黒クロすけがたくさんいたのさ」
冗談冗談と笑いながらも、いそうだなと思う。 暗い二階に上がって行くほ
ど肝も座っていない男はいささかへたれである。
50男ではだめである。 今度はサツキとメイみたいな小さな子供を伴えば
きっと昭和初期の旅館には何かが住んでいるに違いないのだ。
夕刻まで楽しんだ話を終え、「お世話になりました」と宿を後にすると、別棟
の二階にいた吉野屋のおばあちゃんとおぼしき女性と目があった。
「お世話になりました」と大きな声でいい、「またお越しください」と丁寧に
頭を下げられた。
昭和の座敷で先代とおぼしきおばあちゃんに気賀の歴史を聞くなんていう
催しもよさそうだ。
その時に、そっとこの宿にはクロすけがいますかと聞いてみよう。
もしかしたら、子供に戻ったおばあちゃんなら、小トトロくらいは見かけてい
るかもしれない。
縁の下あたりに、どんぐりを溜めていなかったか見ないで残念だった。
吉野屋は我々より長生きして昭和を留めているおばあちゃんの家である。