イチロー的こころ（旧版）

「台風が接近していますから今日は集団下校になります」

学校放送が流れると学級の中はザワザワとする。毎朝公園に集まって6年生
が引率して近所の１年生までを連れて登校することはあっても、帰りに集団
登校は滅多にないのです。

台風は今夜あたり接近します、その雨の弱い間に僕らは下校するのです。
いつも見慣れた田んぼの用水路が溢れる勢いで流れています。
ザアザアと用水は大きな川に流れ落ちます、その川ももう土を含んで茶色
の水が渦をまいています。

台風近づくと子供たちはみな「台風小僧」になってワクワクドキドキと待ち受け
るのです。

「母さん、ロウソクと懐中電灯は？」とちゃぶ台の横に夜中の停電に備えます。
見たい番組があろうと台風近づく晩には「停電」のワクワクが勝つのです。

雨を含んで重くなった雨戸を閉じれば電灯だけの下、NHKに変えたテレビを
見て台風上陸が遠いところのように、でも近くてもいいかなと見ているのです。

「お宮の松が倒れたんだって」、情報通の友達が朝から伝えに来ます。
”期待していた”台風は夜の間に通り過ぎてしまい、水たまりと真っ青な空の
朝を迎えます。

一番エライ６年生の僕らは通学路を曲げてお宮経由に改めて行進します。
お宮の神木のような大きな松が見事に倒れてお宮の屋根を壊しています。
その太さにお宮が壊れたことに興奮して学校に向かうのです。

田んぼの水は用水路と同じになり、稲の緑が先っぽだけ見えています。
その緑の間をヒレを出して大きなコイや鮒が泳ぎます。
僕らは学校に行くのをやめて魚とりがしたくてしかたがなかったのです。

台風近づくと台風小僧も発生します。何事もなくてよかったねという父母の
話を聞きながら何事かないかとキョロキョロして学校へ向かうのです。