山のお父さん

カテゴリー │焼きモノ書き

山のお父さん

ある山の奥に隠れ家のようなお店があります。

川沿いにゆくがゆくが登っていったどんずまりの川原に作られたお店
はまだ若いお父さんとお母さんが切り開いてつくった小さなお店でした。

廃材をもらってきては自ら増築してつくった小屋のようなお店は知る人
ぞ知るお店、お父さんは長いことその奥で蕎麦を打っておりました。

蕎麦の実をゴロゴロ石臼でひき、殻を吹き飛ばした蕎麦粉で打つ蕎麦
づくりを何度も手伝わせていただきました。

力をこめて捏ねれば、蕎麦は汗の分応えてくれて、いいぞいいぞとお
父さんにほめられてこねたものでした。

粉をふるってトントンと蕎麦を切るのはお父さん、茹でてくれるのはお
母さん、週末に遊びに来る人たちを待って蕎麦を打って待っているの
でした。

長い時間が経ちました、お父さんは病気で半身が不随になりました。
言葉もあまり出なくなりました。

見よう見真似でお客さんの中から蕎麦打ちをかってでる人が現れまし
た。トントンと蕎麦切りも分担してやってみました。

がんばり屋ですがもう歳をとったお母さんには蕎麦が打てません。
お父さんが戻るのを待って一人でお店を守るのです。

お蕎麦にはお店のまわりに生える葉っぱの天ぷらがそえられています。
お母さんがツンツンと摘んできてパリパリッと揚げてくれるのです。

みんな蕎麦打ちを手伝ったことがありました。
だから、蕎麦が無くなると奥へ行ってお手伝いができるのです。

蕎麦粉100パーセントの蕎麦は、プツプツと切れてしまいますが、鮮烈
な山の水で冷やされれば一番の山のごちそうです。

人なつこい顔でいつも迎えてくれたお父さん、ゆっくり養生してまたこの
店に帰ってきてくださいね。

見ていてくれるだけでよいのです。
みんなで蕎麦打ちをお手伝いしますからね。

バカヤローと叱ってくださいね。 山のお父さんの蕎麦には誰もまだかな
わないのですから。

そして、美味しそうに食べる私たちの前で山の話をしてください。

私たちはお父さんに会いに山へ来るのですから。

※写真提供:「Round table」ギャラリー通信!どの


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