イチロー的こころ（旧版）

ギターの話が書きたくなりました。旧々板からの再掲載です。
働きながら夢を追う。高校時代を文字通りフォーク狂いのバカ息子で過ごし、願書を出さずにコンサートの曲順ばかり考えて就職組にまわった私に両親が与えた道は東京行き、家業を継ぐ修行に行けというものだった。
当時流行していたのは太田裕美の”木綿のハンカチーフ”、詞どおりに東へと向かう列車で上京、働きながら夢を終える希望ではなやいだ街にやってきた。
上京時にはしおらしく着替えだけだったから、５月の連休に日帰りの帰郷をし、ギターを抱えて戻り、仲間探し、当時仕事の元請けであった建築会社の若い社員を見つけた。まずは練習しようよ。キツイ建築現場の昼休み、フォークの話で話がはずみ、早速１人暮らしの部屋に彼がやってきた。星野さん、２つ年上だった。
高校時代にバイトして買ったギターはMATUOKA製のフォークギターでＤ－２８タイプ、値段の割には糸巻きもグローバー製でコピーギターとしてはよい音がしていた。
ところが星野さんが持ち込んだギターはギブソンのＤＯＶＥ、ギター好きなら誰もが憧れるギターの本物、マーチン派であった自分にも充分わかるギブソンらしい「シャリーン」と響くワイルドなギター、当然好きなミュージシャンも違っていた。星野さんの得意は”古井戸”の中井戸麗一（チャボ）のギター、ラグタイムにも通じるギター優先の曲、私は”ガロ”を代表とする女の子受けするビューティフルフォーク系、好みは正反対なれど、お互いに相手がいない同士、お互いのレコードを持ち込み、実際に弾いてきかせあい、歌いあいの毎日になった。ギブソンから弾き出される野太い音、曲もがなりたてるような曲が多い、一方こちらはハーモニー優先の優しい高音声の曲ばかり、ギターはピッキングが優先、正反対の曲を交互に歌ううち、お互いの好みの曲の息づかい、心のこめ方などがわかってきて、両方の曲ができる２個性のデュオとなった。
と、なるとギターが欲しくなる、毎月２万円の天引貯金が１年半になろうとしていた。それを勤務先に頼み込んでおろし、当時ギターショップとして名をはせていた神田のカワセに相棒と行き、希望のＤ－２８を見せてもらいに言った。
当時カワセはマーチン、ギブソンなどの扱い、在庫とも都内では一番店として知られ、Ｄ－２８も数台から選ぶことができた。が・・親切な店員が弾いてみたらと言われて出してくれたのがビンテージのＤ－２８、飴色になった表面板、ピックガードは板にめり込んだように同化しており、塗装もいい感じに古びているという特別なギター、トロロンと音を出すだけでも音が違う、マーチン弾きの憧れ、あの石川鷹彦のような音がする（かなり腕は贔屓目）、次に新品のＤ－２８、表面板は白く、指板も真っ黒で、いかにもという感じ、高校時代に買ったモーリスのギターと違わないという感覚、もちろんさきほどのビンテージのせい、すっかり迷ってしまい、ギブソンでも・・というところで店員がすすめてくれたのはＨＤ－２８、発売されたばかりの初期型の２８の発展形らしい、ヘリンボーンバインディングが入り、少しデラックスとのこと、今の車でいうならばよい車にエアロパーツがついてまっせ・・という感じ、普通の新品２８に決めながらもビンテージショックを感じた青年にはあと一押しのよいおススメ、ついにＨＤ－２８のオーナーになることになった。憧れの水色のケース付き、ついでにカワセ特製の皮のピック入れ付き、これがマーチンＨＤとの出会いだった。・・・・・・・・・・・が時は流れ今は部屋に飾ってあるだけのマーチン君なのでありました。