アザミ男のララバイ

カテゴリー │音楽夜話

アザミ男のララバイ

「カチン」と雨戸に小石が当たるのが高校時代からの合図で、二階の窓から
見下ろせばアイツが立っている。

「おお、イチロー、出て来いよ」、相変わらず思いつきでフラリと実家を抜け出
して夜中に飲みに行こうというのである。

こんばんは、音楽夜話の時間です。

彼は高校時代からの悪友、駅南に住む我々はバスで駅まで通うのだが、駅
南からのバスは平田の大踏切を渡る、あのあかずの踏み切りにバスがつか
まれば、高校へのバスに間に合わなくなるのです。

通学バスの中は妙な連帯意識が生まれ、まじめな生徒たちは駅に近い海老
塚でどっと降りて浜松駅の鼓線橋を走り駅北へ走る。
昔の浜松駅は駅北と駅南はその橋で結ばれていたのです。
まじめではない自分たちは、終点の遠鉄浜松まで乗ってゆくのです。

二回に一回の割合でバスターミナルの登校時間に間に合うバスに乗り遅れる
そんな仲間が集まれば学校をサポタージュしようという話が簡単にまとまるの
でした。

真夜中のスナックは客もいない、夏の深夜のガラリとしたスナックに行くのは、
彼の選んだ厳しい世界から抜け出してあの頃の仲間と話したいというもの、
たまの休みに逃げて帰ってきていたのです。

ギターを弾いて歌を歌っていた自分と一度も一緒に歌わなかったアイツがスナ
ックで歌うのだと言う。

店には何でも伴奏するギター弾きがいて、カラオケがない時代にはそんな伴奏
で歌う店も多くあったのです。

ギター弾きに耳打ちして歌いはじめたのは中島みゆきの歌でした。

「ララバイ、ひとりで眠れない夜は、ララバイ、あたしを訪ねておいで」

真っ暗なスナック、眠れない夜に歌と同じように呼び出して歌う。

「春は菜の花、秋には桔梗、そして私はいつも野に咲くあざみ」

アザミは夏の荒れ野に咲くさみしくも力づよい花である。東京で力を試そうと一人
厳しい世界へ向かった仲間はあざみのようにさみしくも力づよく咲かなくてはなら
ない、アイツは自分の為に自分を探して歌っているのでした。

「ララバイ、ララバイ、ラララ・ララバイ」

ララバイとは子供を寝かしつける子守唄のことである、眠れない夜、真っ暗な夜に
アイツは自分へのララバイを歌っていたのでした。


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