イチロー的こころ（旧版）

「もうこの裁縫箱だけになっちゃった」と母は言い、子供の頃に
狭い家にあった家具のことを思い出している。

日本の伝統色のその色と名前を見て何が書けるかに挑戦しています。

桑の木は木目も面白く、今から思えば指物のような引き出しがつい
ていて、小さな抽斗を押し込めば他が押し出されてくる。
それが面白くて子供たちは遊びに使う。

そんなことをしながら母が嫁入りに持ってきた家具は僕ら子供の
遊び道具となり、いつしか家にはなくなっていった。

男の子にとって脱脂綿だの、口紅だの、白粉（おしろい）などが
入っている抽斗はとても秘密めいています。

ガーゼに口紅の色がついていたり、化粧壜をあければ不思議な油
の匂いがした。口紅はとくに秘密めいていたのです。

参観会の日の休み時間の窓は子供たちが親が来るのを待っています。
「あ、、だれかのお母さんだ」と言えばなんとなく恥ずかしい。
お出かけの服を着たお母さんたちが口紅をして後ろに並ぶのです。

口紅をした大人の女の人は、子供たちには大人よりもずっと先のこ
とに思えました。
口紅をしたお母さんがなんとなく照れくさくて誇らしくて子供たち
はソワソワしていました。
口紅の匂いがする教室はいつもとはとても違っていたのです。