バージンブルース

カテゴリー │深遠なる缶詰デスクから

バージンブルース

高校時代はバスと電車を乗り継ぎ、1時間半ほどもの通学時間があり、読書に費やす
に充分な時間があった。

薄い単行本なら2日ともたない時間があるから片っ端から乱読した。
我らの高校時代は大竹しのぶがデビューした”青春の門”が封切られたように五木寛
之全盛時代である。

五木先生も次々と書くが高校生の読破力にはかなわず読みきると、次はまた作家を探
さねばならない。

新しい作家を見つけると本屋の書棚は宝が並んでいるようなもので、その作家を食い尽
くすように本を読む、今と違い通学時には音楽もない、読書は格好のひまつぶしだった
のであります。

世はフォーク時代、もちろんその洗礼を受けギターを手にしていたのだけど、そのヒット
したフォークソング”赤ちょうちん”、”妹”をタイトルに藤田敏八監督が映画を作った。

その主演が我らが秋吉久美子、たちまちその魅力のとりこになる。
”大人びた不思議少女”も同じく我々が守ってあげたいと思うような大人気の頃で、その
少女が映画の中で裸になったり、不幸になったりする。

二本の映画の後、三部作として作られたのが”バージンブルース”でありました。

これを歌うのが野坂昭如さん、五木寛之、藤本儀一らと並ぶ闇市焼け跡派と呼ばれる
世代の作家たちで、じつは五木の後、野坂、藤本と読み進んでいた。

その野坂が歌う歌がテーマの映画、そして秋吉が出るならと映画館に向かった。

野坂昭如はご存知のサングラスで歌を歌ったり、過激な発言でお馴染みなのだが、書
いても独自な世界を持っていて、そのスピードある焼け跡感が好みだった。

放送作家から、作家、歌手、作詞家までこなす才能は、作詞では「おもちゃのチャチャ
チャ」を書くなど、まさに多彩、我々高校生が目指す一つの方向の不良でありました。

彼の文体は単語の見事なまでの羅列が、独特のスピードを持つ。

例えば愛をテーマとしたならば、愛情愛憎愛欲愛飲愛玩愛器愛機愛煙愛嬌・・・などと
単語の羅列をしてシーンをつくる。
バスに揺られながら読むと、クラクラするほどの漢字羅列で表す描写が迫ってくる。

ちょっとおどろおどろしく、また経を読むようで特別な世界観を持っていた。

ときにバージンブルース。

高校生にはタイトルからして刺激的、既に赤ちょうちん、妹などで裸を披露したポスタ
ーなどが出回っているから、高校生が「俺は秋吉久美子が好きだな」というのは、少し
大人びている。

そして当時は少し不良を指す。秋吉久美子は我々を大人にしてくれた女性でもあった
のである。

暗い映画館に座り、映画がはじまると野坂の歌がはじまる。

「ジンジンジンジン、血がジンジン」、これが野坂のバージンブルースでありました。

ちょっと笑い、そして清楚な予備校生秋吉が現れる。
そして、彼女は大人たちにまみれ、大人の汚れた世界を見ていくのである。

バージンと大人の不良、それを見て大人へ背伸びする高校生、野坂の歌。

そこに展開されるのは、大人の不良が少女を汚していく話であったが、秋吉はそれ
でも不思議少女としてそこに存在した。

我々は映画に出てくる大人の男たちとともに、秋吉にひれ伏した。

1976年、大人の汚れを知らない高校三年の、そう不思議でもない文学青年時代の
話でありました。

やがて、秋吉が結婚をした。彼女は「子供は卵で産みたい」と言った。

我らはしてやったり、不思議少女秋吉ならそう言わなくてはならないのだから。


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この記事へのコメント
私も秋吉久美子さん
今でもファンで~す゚.+:。(≧∇≦)ノ゚.+:。

バージンブルースは知らないけど(^^ゞ
三味線を弾いてるドラマで
和服を着てた彼女が素敵でした♪
Posted by TOMOKO at 2007年08月01日 11:40
TOMOKOさん、コメントありがとう。
八幡の先輩を訪ねたらお知り合いであることがわかりました。
不思議少女、TOMOKOさんもその一人ですよ。年齢不詳です。
Posted by イチロー at 2007年08月01日 20:35
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    コメント(2)