バカ当たり

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バカ当たり

え~、またも三題噺でありまして、今回は氷、扇子、鰻だと言う。
なかなか夏らしいお題であります。

シャッシャッシャッ、冷凍庫から氷を取り出しまして氷屋のオヤジが
ノコギリで氷を切るのを見るのも夏の風物詩であります。

昔は夏になれば、町に氷屋がありまして、店でも売りますがリヤカー
に乗せ、ムシロを被せて配達にも来てくれましたな。

氷には一貫目ごとに切れ目が入っておりまして、「2貫目くんな」な
どと注文しますと、オヤジが切れ目にノミを当てまして「カツン」とハ
ンマーで叩いて割るという。

大きくてつべたくて透明な氷、家の中に置きますと見ているだけで
涼しい、子供らはこれをかいていただけますからうれしくてたまらない
なんて夏の風情がありましたな。

夏でありますから家の窓は全て開け放ちまして四方から風を入れま
すと涼しい。

小さなアブラムシぐらいから育てました鈴虫を鳴かせまして大人はビ
ールを、子供は父ちゃんからソラマメをもらいましてテレビを見るという
ような暮らし方をしております。

「お前、野球はどうなんだ」と子供に聞きますと、今日はホームランを
打ったという。毎朝早くから近所の広場で草野球をやっておりまして
じつは気になって仕方がない。

いつか将来、有名新聞社の旗を立てた黒塗りの車が路地に入ってま
いりまして「お宅の息子さんを我が球団に」などと言うことを親としては
夢みております。

センスだな、センス、プロの選手の当て方をテレビで見てこれだこれだ
と息子をつかまえて解説をしております。

「ソラマメをもっと食え」とオヤジ、息子に言いましてソラマメで息子を
育てようという、まあオヤジなんてぇものは自分じゃなにもできませ
ん、夢を託そうなんてソラマメが妙に好きな子供を見ている。

育て育てと消化が悪い豆を食わせて、氷まで食わせております。

そんなことをしてますから子供が腹をこわしまして熱を出したという。

こんな時に母親はいろいろ面倒をみますが、オヤジは何もすることも
ない、朝の野球も行きませんから夢が壊れちまう。

「なんか食いたいものはないのか」、なんてたまにやさしい言葉をか
けたりしております。

「鰻なんかどうだ、精がついていいぞ」なんて言いますとぐったりとし
ました息子はいらないと言う。

母親は「腹くだしに鰻を食わせたら、余計当たっちまうよ」なんてあき
れている。

それなんだ、もっと当てなくちゃあなんねぇ

腹くだしの息子に精の出る鰻を食わせるというオヤジ、鰻は全て裏に
向けろなんて言っております。

裏にしたカバ焼を食わせて、バカ当たりをさせたと言う。

無茶なオヤジのお話でありました。

チャンチャン


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